[最終更新日]2023年9月12日  [記事公開日]2022年9月6日

学生の就職率低下を改善するために大学側がすべき対策とは

コロナ禍において新卒学生の就職率低下が叫ばれていますが、実際の状況はどうなのでしょうか。まずは直近である2021年の状況を確認したうえで、その原因と、改善のために大学側がすべき対策について考えていきましょう。

新卒学生の就職難に関する問題

新卒学生の就職難に関する問題

文部科学省の発表によると、2021年に大学を卒業した人のうち、就職した人の割合は全体の74.2%でした(令和3年度学校基本調査)。これは正社員や非正規雇用を問いません。また、アルバイトなどの一時的な職業に就いた人が2.0%います。一方、就職はしていないものの大学院や海外の大学等に進学した人が11.8%もいますので、「就職できなかった人」とくくるのは適切でないでしょう。

大学(学部)卒業後の状況(令和3年度学校基本調査より抜粋)
大学(学部)卒業後の状況

つまり、上記の就職した人、一時的な職業に就いた人、および、進学した人以外の人たちが、2021年に就職できなかった新卒学生ということになります。この割合は全体の9.6%です。

ただ、一概に就職できなかったと片付けることも適切ではありません。なかには司法試験などの資格取得に向けての勉強のために、就職も進学も選ばなかった人もいます。また、卒業即結婚により、専業主婦(主夫)になった人も多くはありませんが一部に存在することは確かです。

一般的に新卒で就職したという場合、正社員などの正規雇用と捉えられます。逆に言えば、それ以外の人たちは安定的な雇用を得ることができなかった人たちということです。希望したのに得られなかった人ばかりではありませんが、それらを合計すると、2021年の新卒学生のうち14.4%が該当します。これを多いと見るか少ないと見るかで、就職難かどうかが判断できます。

安定的な雇用を得られなかった人の割合が算出されるようになったのは、2012年の学校基本調査からです。算出された当初は22.9%でした。それが2021年に14.4%までに下がっているわけですから、少なくとも数字を見る限り、近年ますます新卒学生の就職率が低下しているとは言えないでしょう。非正規雇用の割合が減り、正規雇用の割合がアップしたわけですから、新卒学生の雇用状況は今のところ改善されていることになります。

学生の就職率が低下してる原因

学生の就職率が低下してる原因

経済状況などによる募集枠の減少

21世紀に入ってからの新卒学生の就職状況はどうなっているのでしょうか。一つのターニングポイントとなるのが2008年のリーマンショックです。その直前まで就職率は上昇を続けており、ピークに達しています。ところが、金融危機を迎えて急落し、しばらく雇用市場が冷え込みました。大学を卒業しても就職先が見つからず、進学もしていないという人の割合がこの時期最も高かったのです。

大学(学部)卒業者の主な進路状況(令和3年度学校基本調査より抜粋)
大学(学部)卒業者の主な進路状況

この状況が回復を迎えたのが2011年ごろからで、それ以降、徐々に就職率はアップしています。厚生労働省と文部科学省が共同で発表する大学生の就職内定率の推移からも、この動きは確認可能です(令和4年3月大学等卒業者の就職状況(4月1日現在))。

なお、就職率は上昇してきたのに対して、進学率が徐々に低下してきています。たとえ大学院まで進学しても、それで就職が有利になるわけではないという現状が表れているのでしょうか。もしくは、大学院でさらに学業に励むよりも、仕事を通じてやりがいを感じたいという学生が増えてきたことの表れでもあるでしょう。

近年は以上のような状況ですが、2000年ごろまでは今よりもっと就職も進学もしない人の割合が高かったです。それが変化を見せ始めたのが2005年ごろからで、就職も進学もしない人の割合がどんどん低下しています。また、ここ数年では、大学院等に進学する人たちは減ってきており、就職率は上昇中です。

さきほど金融危機の影響で大きく就職率が落ちた時期があると述べましたが、その時は前年から10%近い急落を見せました。この時の印象が「大学生の就職難」というイメージを決定づけたのでしょう。しかし、10%近く急落したとはいえ、それでも2000年前後と比べて依然高値を維持しています。その後、就職率は回復したため、世間で言われるほど就職難だったかと言うと、疑問を呈さざるを得ないのではないでしょうか。

もっとも、2020年のコロナ禍の影響でふたたび就職率は落ち込みを見せています。冒頭で正規雇用か非正規雇用かにかかわらず、就職した2021年の新卒学生は全体の74.2%と述べました。前年は77.7%だったため、3.5%もの減少です。しかも、昨年の数字は一昨年よりも低下しているため、2年連続で減少していることが見て取れます。文部科学省によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、一部の職種において求人数が減少したことが大きな影響とのことです。

コロナ禍で2年連続低下した新卒学生の就職率ですが、2022年はどうなのでしょうか。ある求人倍率調査によると、2021年卒の大卒求人倍率は前年度より大幅に下がったけれども、2022年卒では2021年卒とほとんど変わらず、下げ止まっているそうです。業界別や企業規模別に見れば、まだまだ募集の少ないところもあるものの、逆にコロナ禍の中でも流通業などは好景気で、募集を増やしている企業もあります。そう考えるとコロナ禍による求人数の減少にも、一応は歯止めがかかりつつあると言えるでしょう。

そのように21世紀に入って以降、一時の落ち込みはあったものの新卒学生の就職率は上昇を続けていました。それが2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、ここ1~2年でまた低下を見せましたが、その状況も徐々に収まりつつあるのが現状です。

学生の就職意欲を高めにくい就活環境

単純に募集枠が減少しているという以外にも、学生の就職意欲を刺激しにくい環境になっていることは否定できません。その1つが、採用活動の早期化です。

文部科学省の令和3(2021)年度 就職・採用活動に関する調査(企業)調査結果報告書によると、広報活動の開始時期は卒業前年度の3月が最も多く、49.4%でした。しかし面接などの採用活動の開始時期も、同様に卒業前年度の3月が最も多く、27.8%もあったのです。それ以外の企業も6月より前に採用活動を始めたところが大半で、6月以降に開始した企業は全体の34.2%しかありませんでした。

また、面接開始の時期だけでなく、内定を出す時期も早いです。6月より前に内々定を出し始める企業は50.8%にも上っています。つまり学生にとっては、広報活動が始まったと同時に選考も始まってしまうだけでなく、あっという間に募集が締め切られてしまうため、どんな業界や企業に就職したいかじっくり検討している時間がないわけです。

また、採用活動のオンライン化も、学生の就業イメージを湧かせにくく、就職意欲が高まりにくい原因と言えるでしょう。人柄の見極めにくさなどから、最終面接こそ対面で行う企業も増えていますが、初期選考や、企業説明会はまだまだオンラインで行う傾向です。同じく文部科学省の令和3(2021)年度 就職・採用活動に関する調査(企業)調査結果報告書によると、「昨年度も本年度も、主に対面の説明会を実施」または「昨年度は主にオンラインの説明会を実施したが、本年度は主に対面の説明会を実施」と回答した企業は、両方合わせても29.8%しかありませんでした。

オンラインのみの情報では、学生にとってはその業界・企業のイメージや自分がそこで働くイメージをつかみにくく、強い就業意欲へとつながりません。そのように就活の慌ただしさやオンライン化が、就活へのモチベーションが上がらりにくい状況を作り出していると言えます。

就職率低下を改善するために大学側がすべきこと

就職率低下を改善するために大学側がすべきこと

以上見てきたように、就職難が叫ばれている昨今ですが、コロナ禍が始まるまでは新卒学生の実際の就職率は上昇していたことが確認できました。また、コロナ禍によって2020年から就職率低下が見られたものの、2021年から2022年にかけて徐々に回復しつつあることがわかります。

つまり、世間一般のイメージほど就職難というわけではないのが実情なのではないでしょうか。少なくとも1990年代後半と比べると就職率はかなり高く、就職を希望する多くの学生が、それが第一希望かどうかはともかく就職できているとは言えそうです。

一方で、以前の金融危機や今回のコロナ禍のように、突発的なことで就職率が低下することがあるのも事実です。それを予防するとともに、低下した就職率を改善するために大学側ができることには何があるでしょうか。

一つは、早い段階からのキャリア教育です。

最近の新卒採用は、従来と比べて多様なスキルが試されるようになっています。エントリーシート一つ取っても、一面的な自己分析では不十分で、自己を客観的に、かつ、多面的に分析できる能力が問われます。また、インターンシップでは学生同士で協力して企画を立案したりなど、実践的なスキルを問う企業も少なくありません。それに対応するには、従来のように大学3年の後半になってからようやく先のことを考えるのでは遅すぎるでしょう。

大学は学生に対して、入学時から自己のキャリアに意識を向けさせるようにすることが重要です。たとえば日本大学では、1年次にキャリアガイダンス、2年次にインターンシップガイダンス、3年次に実践的な講座や面接対策、相談会など多彩なプログラムを提供しています。

また、日本大学では、学生が企業と直接対話できる就職セミナーを開催していますが、「明確に参加目的を有する学生のみ参加可」と条件を付して事前予約制を採用しているのがユニークな点です。誰でも参加できるセミナーと違って、学生にしっかり目的意識を持たせることに貢献しています。真剣な学生が多いほど参加する企業にとってもメリットはあるため、学生と企業双方にとって有益な対策ではないでしょうか。このような工夫を各大学で試みるのも、就職率改善のためには望ましいでしょう。

まとめ

新卒学生の就職率低下が叫ばれている昨今ですが、実情は少々異なることが理解できました。少なくともコロナ禍以前までは、金融危機での落ち込みがあったといえ、就職率は上昇を続けています。また、コロナ禍の影響はまだあるものの、2022年になって徐々に回復傾向が見られます。

そうはいっても、事態の急変によっては、またいつ何時就職率が低下するような状況になるかわかりません。それに備えて、大学でも早い段階からキャリア教育に力を入れるべきではないでしょうか。

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