[最終更新日]2023年9月12日  [記事公開日]2022年9月21日

【教育機関向け】大学におけるキャリア教育の在り方と取り組みについて

近年、キャリア教育という言葉を目にする機会が増えました。日本では、1999年の文化省中央教育審議会でキャリア教育が提唱されました。それをきっかけに、20年以上に渡り、キャリア教育が推進されてきました。キャリア教育に絶対的な「解」はありません。時代の流れによって、求められることも変わります。その中で、2022年現在の大学におけるキャリア教育の在り方は、どのように考えられているのでしょうか?

大学生のためのキャリア教育とは

大学生のためのキャリア教育とは

国の推し進めるキャリア教育は、2つの意味合いがあると考えられています。それは、社会的並びに職業的自立のために必要な基本的な能力や態度を育てることと、一定もしくは特定の職業に従事するにあたって必要な知識やスキル、能力、態度を育成する教育の2つです。前者はキャリア教育本来の意味合いであり、後者は職業教育という意味合いが強いです。この2つの観点から教育を進めることで、手厚いキャリア形成へのサポートシステムが機能するという考え方です。

文化省は学生のキャリア教育において、大学の果たす役割は大きいと考えています。なぜなら、講義と実習を組み合わせることで、より充実したキャリア教育ができるとされるからです。このような試みは、すでに大学でも取り組まれています。しかし、多くの大学のキャリア教育は、全学共通科目や教養科目にとどまっていました。しかし、文科省はさらに進んだキャリア教育を推奨し、専門学部や大学院研究科などの専門課程のキャリア教育に力を入れるべきと考えています。つまり、より専門性を生かしたキャリア教育が必要なわけです。

キャリア教育の必要性は、日本でも高まっています。その背景には、日本における働き方の変化が関係しています。日本の雇用システムは、終身雇用と年功序列の2本柱でした。これにより、「いい大学に入ればいい会社に就職でき、定年までそこでキャリアを全うする」ことが当たり前の時代でした。つまり、とりあえずいい大学に入ることさえできれば、将来は約束されていました。しかし現在、終身雇用や年功序列が保証される会社は多くありません。雇用の多様化や流動化が進んでいますし、グローバル化も進行しています。終身雇用が保証されない以上、それぞれが自分のキャリアについて真剣に考えないといけません。

また、かつては60歳で定年を迎え、あとは年金などで悠々自適な生活が待っていました。しかし、現在は少子高齢化が進んでいることに加え、人生100年時代に入りつつあります。定年も先延ばしになっていますし、余裕のあるセカンドライフを送るためには十分な資金が必要です。納得できる充実した人生を送るためには、若い段階から適切なキャリアを選ぶためのスキルを獲得しなければなりません。このため、大学の段階でキャリア教育を受ける必要性が増しています。また、社会人としての必要最低限の能力を習得できるキャリア教育は、自立した社会人として人生を送るためにも必要とされています。

大学におけるキャリア教育の在り方と取り組み

大学におけるキャリア教育の在り方と取り組み

大学におけるキャリア教育で、ターニングポイントになったのが2011年4月です。大学設置基準が施行され、「学生が卒業後に自分の能力を向上させ、社会的並びに職業的自立を目指すために必要な能力を培えるように大学内で適切な体制を整えること」という条項が明記されました。簡単に言えば、キャリア教育の義務化です。大学はただ単に学問を学ぶだけでなく、自分の人生を自立して歩むための知識やスキルを身に着ける場所と認識されたのです。

この文科省の方針を受けて、大学でもキャリア教育に取り組んでいます。文科省の調査によると、2016年度の段階でキャリア教育を行っている4年制大学は、90%以上にのぼります。さらに、授業科目としてキャリア教育を採用している大学は、75%に達しています。

また、文科省の方針では、キャリア教育の内容は全国一律ではありません。それぞれの大学の事情を鑑みて、自由に内容設定が可能となっています。その内容を文科省が調査したところによると、最も多かったのが「勤労観や職業観の育成」で、87.4%に達しました。続いて「資格取得・就職対策など」が82.6%、「今後の人生設計に関する科目」が80.8%でした。他にも「企業関係者やOB・OGなどの講演」が79.5%、「インターンシップの導入」が78.0%と高い数字になりました。

加えて、キャリア教育の講義は選択科目にされることが多い傾向にあります。しかし、少数ながら、キャリア教育を必修科目として採用する大学も見られました。

このように、今では多くの大学がキャリア教育の重要性を認識し、カリキュラムに組み込んでいます。ただし、今後のキャリア教育の在り方に関して、課題も見られています。特に大きな課題として、教職員間でキャリア教育に対する意識が共有されていない場合が多く、温度差が見られる点が挙げられます。例えば「キャリア教育は専門の教員がやればいい、自分は関係ない」と考えている教職員はいないでしょうか。また、学生のキャリア形成に影響を与えていないと思う教職員も多くいます。しかし、これは大きな間違いです。学生の中には研究者になろうとしている人もおり、彼らに対するキャリア教育も必要です。もし、キャリアを軽視している教授がいれば、学生のキャリア形成にマイナスの影響を与えかねません。

また、学生の取り組み方に問題があります。例えば、社会人基礎力が備わっていない状態で、社会に出る学生も多くいます。このようなことが起きる要因として、大学のキャリア教育に問題があるかもしれません。キャリア教育にそれぞれの大学が独自に取り組んでいますが、個々の学生に合わせたプログラムになっているでしょうか。個々の学生の現状を把握し、それぞれの学生に適したアプローチをしなければ、自分のキャリアについて真剣に考えることは難しいでしょう。このような取り組みまでカバーできていない大学も結構多いです。

このように、多くの大学ではキャリア教育に対する取り組みが進められています。しかし、総じて効果が表れている段階ではなく、キャリア教育の抱える課題もいろいろと見えてきます。

キャリア教育の取り組み例

キャリア教育の取り組み例

キャリア教育に対しては、様々な課題が存在します。しかし個々の大学を見ると、ユニークなキャリア教育に取り組んでいる事例も見られます。その中でも、学生のキャリア形成に貢献しており、業界で注目を集めている事例を紹介します。

法政大学

法政大学は、早くからキャリア教育に力を入れている大学として知られています。なぜなら、2003年当時日本初となる、キャリアデザイン学部を新規設置し、注目を集めたからです。この学部では、自立的な人材を育てることを目的としたカリキュラムを提供しています。授業は少人数制にし、教員は教えるというよりも立会人のような役割を果たします。つまり、議論は学生に自由にやらせ、議論の方向性が定まらない時にヒントを出すような立ち位置です。これにより、学生が主体的に授業に参加しています。2年次には、体験型選択必修科目を履修し、授業内容としてインターンシップを行っています。インターンシップの対象として、企業だけでなく自治体やNPOなど幅広い選択肢の中から、自分の今後の進路を自ら決めていくことができます。インターンを通して、カリキュラム内でのキャリア体験学習ができるようになりました。

産業能率大学

産業能率大学も、キャリア教育で注目を集めている大学です。この大学では、キャリアデザイン科目を採用し、1年次から4年次までに総合的かつ体系的にキャリアデザイン科目を配置することで、段階的に就職へ準備できるようなシステムにしています。1年次は、まず働くことに対する意味を見出すことで、自分の将来について能動的に考えるきっかけを与えます。2年次では、業種研究や業界研究がメインです。その中で、自分がどんな業界に行き、何をしたいかを具体的にイメージする機会を作ります。この段階でインターンシップに参加して、実際の職業を体験させます。3~4年次には、企業研究や就職対策を進めます。この中でどこに就職したいか、その採用試験に合格するためにはどうすればいいかを自ら考えます。このように、具体的な就活対策を1年次から進めることで、働くことへの意識を高めさせます。

昭和女子大学

昭和女子大学では、キャリアコア科目を全学共通で設置して、キャリア教育に力を入れています。昭和女子大学も産業能率大学と同様に1年ごとに目標を設定して、キャリアに対する意識づけを進めていきます。1年次には、就業の意味やキャリアデザインの重要性について理解させます。2年次は、ビジネスフィールドロールモデルに関する学習がメインです。この勉強を通じて、自分のキャリアデザインを描く力を養っていきます。3年次には、就活スキルをアップするためのカリキュラムで、実際に内定を獲得するためのノウハウを培います。そして、4年次に卒業後の進路を決め、社会人になるにあたって何を目標にするか明確にするためのサポートを行っています。女子大のため、女性に特化したキャリア教育のカリキュラムになります。この点が、女性の活躍できる社会づくりにマッチするとして、注目が集まっています。

京都産業大学

京都産業大学も、キャリア教育に力を入れている大学の一つです。キャリア教育関係の授業を17科目開講しています。その中には、学内だけでなく、インターンシップなど学外で行われる科目も見られます。大学内だけでなく、社会で実践的な教育を受けることで、能動的に行動できる人材育成に力を入れています。これが、日本型のコーオプ教育として高く評価されています。また、進路適性検査を取り入れ、それぞれの学生の能力や個性に合わせた授業を展開しています。さらに、グループワークで他の学生と連携して物事に取り組んだり、担当する教員をローテーション制にしたりしています。このような非常にユニークな取り組みも評価されているようです。

創価大学

創価大学では、キャリアセンターが「F3プログラム」と呼ばれるキャリア形成プログラムを作成しています。学生生活は、キャリアデザインという考え方がベースにあり、大学生活を通じて、学生が自ら未来を切り開く力を培うことを目的としています。1~4年次でそれぞれ複数のキャリア科目を開講しており、キャリアセンターでも就職やキャリアに関するイベントを開催しています。さらに、2004年からピアサポートと呼ばれるシステムを導入しています。こちらは進路の決定した大学4年生や大学院の2年生が、後輩のサポーターになる制度です。1~2年次のキャリアサポートを担当するキャリアサポートスタッフと、3年次の就活をサポートするリクルートサポートスタッフの2種類を用意しています。キャリアについて先生に相談しづらいと感じる学生でも、先輩であれば気軽に相談できるでしょう。

まとめ

大学とはいろいろな学部があり、専門的な教育を受ける場だと認識している人も多いでしょう。しかし、現代社会では専門的な教育機関だけでなく、将来の学生のキャリア教育にも力を入れるべきという考え方が浸透しつつあります。社会的にも職業的にも自立できるように、必要な能力や態度を学生時代のうちに身に着けられるカリキュラムが求められています。キャリア教育に取り組んでいるけれども、思うように効果が上がらないというのであれば、上記で紹介した大学の試みを参考にして、プログラムを一度見直すのはいかがですか?弊社のキャリアプランナーを活用して、キャリア教育を充実させていきましょう。

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