[最終更新日]2023年9月12日 [記事公開日]2022年9月21日
退職者の多さに悩む人事必見!定着率を上げる方法をプロが教えます
せっかく採用して入社したのに、すぐに退職されてしまったり、一人前になったと思ったら転職されてしまったりなど、人材の流出で悩む企業は数多くあります。現在、日本の社会は少子高齢化社会へ移行し、若い世代の働き手が不足して、多くの企業は人材不足という大きな問題に直面しています。この問題を解決するには、新しい人材を確保することも大切ですが、それと並行して、既存の人材の定着率を上げることが重要になってきます。
定着率とは?
定着率とは、企業へ入社した社員が、ある一定期間を経て、どの程度その企業に定着しているのかを表す指標のことです。日本の企業の多くは4月を新入社員の入社月として設定していることから、4月開始の年度単位で計算されることが多くなっています。ただし、定着率の定義は場合によって異なるため、全てが同じ基準で算出されたものではなく、一概に数字のみを取り出して比較できないことを覚えておきましょう。
定着率はいわば、その企業の働きやすさを示す指標と言っても過言ではありません。なぜなら、定着率はどの程度の人材が企業にとどまっているかを示すものであるため、その数値が高ければ高いほど、その企業の離職率は低いということになるからです。離職率が低いということは、長くその企業にとどまりたいと思える環境が整備されている、すなわち働きやすい企業であるということができます。現在は転職するのが当たり前の時代になりましたが、それでも多くの人は、入社した会社で長く働きたいと思うものです。そういった人たちにとって、定着率の高い企業は優良企業と映ることになります。
一般的に企業ごとの定着率の計算には、以下のような計算式を使用します。
定着率=一定期間を経過して勤務し続けている人数÷一定期間の開始時に雇用された人数×100
例えば、4月からの1年間を一定期間として定めるなら、4月の時点で採用した人が10人で、1年後に残った人数が8人の場合、(8÷10)×100という式になり、定着率は80%ということになります。
また、定着率と同じような指標として、離職率があります。離職率とは、一定期間の間にどれくらいの人が離職してしまったのかを表す指標で、その定義は定着率と対になっています。そのため、定着率は100%から離職率(%)を引くことでも算出できます。その場合の離職率の考え方は、定着率とは逆で「一定期間の開始時に雇用された人数のうち、一定期間が経過する前に退職した人の割合」です。
厚生労働省が調査したデータによると、新卒で入社した社員のうち、3年以内の離職率は実に3割を超えているという実態が判明しています(新規学卒就職者の離職状況)。このまま人材の流出が長期的に続けば、若い人材が十分育たず、近い将来多くの企業が社員の力量不足に悩まされることになるでしょう。それを防ぐためにも、企業側には自社の社員の定着率を上げる努力が必要なのです。
定着率の高さがもたらす企業への影響
次に、定着率の高低がもたらす企業への影響について考えていきましょう。先程、定着率が高い企業は優良企業と見なされると説明しましたが、具体的には以下のようなメリットや影響があります。
1つ目は、人材の流出を防止できるという効果です。前述の通り、定着率が高いことは、その企業で働く社員にとって、とても働きやすい会社であると言えます。それは言い換えれば、社員の企業に対する満足度が高いということです。そんな満足度の高い会社には長く勤めたベテラン社員が多数残っているため、企業のパフォーマンスが低下せず、常に高い状態を維持できることにつながります。
企業にとって人材の流出とは、働き手を失うことだけではなく、仕事のノウハウやスキルを高めた社員が流出してしまう危険性をはらんでいる、とても大きな問題です。流出してしまった人材が優秀であればあるほど、企業の経営に大きな影響を与えることが予想されます。それを防ぐためには、社員にとって居心地のよい会社であると感じてもらうことが重要です。少しでも多くの社員にそう感じてもらえるように、企業側の定着率を上げる働きかけが大切なのです。
メリットの2つ目は、社員のモチベーションを高める効果です。定着率が低い企業では社員の入れ替わりが激しく、社員たちも辞めていく人の姿を頻繁に目にするため、仕事に対するモチベーションがどんどん低下してしまいます。また、入ってもすぐに辞めてしまうことは、新入社員の教育やマネジメントの質を低下させ、人材が育たないという負のスパイラルを生み出してしまうのです。
反対に、定着率の高い企業は、長年勤務し続けた熟練の社員が多く残っているため、統率がうまく取れており、若い社員も育てやすい環境が整っています。さらに、人員も潤沢に揃っているため、各社員に振り分けられる仕事の比重が軽減される傾向があります。こうしたことの積み重ねは職場内に余裕を生み出し、その余裕が社員のモチベーションを高めることにつながるのです。
3つ目は、採用や教育にかかるコストを抑えることができるという効果です。定着率が低く、離職者が多い職場では、新たな人材を確保する必要が出てきます。企業を経営していく上で、この採用にかかるコストや教育にかかる時間は、できるだけ削減していきたい重要な項目です。
なぜならば、1人の新入社員を採用するためには、求人広告の費用やセミナーの開催費用などで、約50万円ほどかかると言われているからです。この費用は大企業であればそこまで負担にならないかもしれませんが、小さな企業にとってはその年度の予算や業務を圧迫してしまう可能性が高くなってしまいます。定着率が高いということは社員が企業に残っていて、空きが出ないということですから、そうしたコストも自然に抑えることが可能なのです。
4つ目は、顧客の満足度を向上させるという効果です。定着率が高い企業では、1つの顧客に対し、同じ社員が長く担当を続けることができます。長期間に渡る付き合いは信頼関係の構築につながり、顧客側も安心して仕事を任せることができるのです。
5つ目は、自社の評判を守ることができる効果です。新入社員の定着率が低い会社は、これから応募してくる求職者に対して、ネガティブなイメージとなるリスクをはらんでいます。なぜならば、数年の間にわたって新人が長く続かないということは、企業経営のシステムに何かしらの問題があると判断されるからです。反対に、定着率が高ければそうした負のイメージを抱かせることはありません。そのことを前面に押し出すだけで自社の魅力となり、より多くの求職者を集めることができるでしょう。
定着率を上げる方法とポイント
最後に、定着率を上げる方法について考えていきます。定着率を上げるためには、定着率を下げてしまう原因を把握し、その原因を取り除くことを意識して施策を行うことがポイントです。
定着率を上げる1つ目の方法は、給与や福利厚生の充実です。定着率を下げてしまう原因の1つに、給与や福利厚生に対する不満があります。もし、企業内でそうした声が上がっている場合は、給与や福利厚生の内容を一度検討し直す必要があります。
具体的な施策としては、固定給のほかに、成果報酬型のインセンティブや報奨金を導入したり、各種手当や退職金を充実させたり、といった方法が考えられます。とある調査によれば、福利厚生の中でも、家賃補助や住宅手当、そして食事の補助などの項目が人気が高いので、まずはそうしたところから改善していくのも良いでしょう。
定着率を上げる2つ目の方法は、人事や評価制度の見直しです。社員は、自分が頑張っている姿を正当に評価されていないと感じると、仕事に対するモチベーションが下がってしまいます。そのため、頑張りが直接キャリアアップや昇給につながるような、人事や評価制度を整えることが大切です。
具体的な施策として、近年では自分が希望する部署に自分を売り込むことができる社内FA制度や、社員自身が希望する部署を申告する自己申告制度などが注目されています。社員自身の考えに耳を傾け、それを反映できる環境を整えることで、長くこの会社に貢献したいという意欲を高めることができるのです。
定着率を上げる方法の3つ目は、ワークライフバランスの支援です。ワークライフバランスとは、生活と仕事の調和を意味する言葉です。休みが少なすぎたり、残業が多すぎたりするとこのバランスを崩してしまうため、嫌気がさし、定着率を下げてしまう大きな原因の1つとして考えられています。
近年は自身の働き方を見直して、プライベートの時間を充実させたいと考える人が増加している傾向があるため、企業側もその声に応える制度を導入することが大切になっています。具体的な施策として挙げられるのは、フレックスタイム制や在宅勤務制、そして有給を取りやすい雰囲気づくりなどです。この取り組みは国としても力を入れている施策なので、積極的に導入することが推奨されます。
定着率を上げる方法の4つ目は、社内の人間関係を良好にすることです。転職者の離職理由の上位には例年、社内の人間関係が良くないという理由が上がってきます。職場の人間関係がギクシャクしてしまうと、その周囲の人間も居心地が悪くなってしまうため、当人だけでなく多くの離職者を生んでしまう場合があります。それを防ぐためにも、企業側はきちんと職場内の人間関係を管理し、誰にとっても居心地の良い空間を作り上げることが大切です。
具体的な施策としては、社員同士のコミュニケーションを活性化させることのできるメンター制度の導入や、定期的な面談、そして座席を自由に移動できるフリーアドレス制度などが有効です。世代や役職の壁を超えて、気軽にコミュニケーションを取ることのできる環境を整えることで、風通しの良い職場を作り上げることができるのです。
定着率を上げる5つ目の方法は、入社前と入社後のギャップの軽減です。近年、多くの企業では新入社員の定着率の低下に悩まされています。その理由として考えられるのは、入社前にイメージしていた仕事内容や待遇、会社の雰囲気など、実態とのギャップが大きすぎることです。これは採用の選考時にきちんとコミュニケーションが取れておらず、価値観のすり合わせがうまくいっていない場合に起こりやすい傾向があります。
そうしたミスマッチを起こさないためにも、企業側は会社の実態を正確に把握し、それを偽りなく伝えることが肝要です。その他、入社前に社内を見学できるような機会を設けることも有効な手段となります。将来の定着率を上げるためには、こうした入社前のフォローも重要になってくるのです。
定着率を上げる6つ目の方法は、社員の能力開発を支援することです。どのような企業であっても、将来性を感じることができないと社員に不安感を抱かせ、モチベーションを低下させることにつながってしまいます。特に、自身のスキルアップに強い関心を持っている優秀な人材ほど、その傾向が強いです。そうした状態を避けるためにも、常に企業は新しい時代に対応できるような柔軟性を持っている必要があります。
そうした柔軟性を示す施策として、社員の能力開発支援はとても有効です。社員自身も自分のスキルを高めることができますし、スキルアップした社員を多く抱えるということは事業の生産性や効率アップにつながります。そのようにして、企業と社員が相互に成長し合える体制を整えることが理想的なのです。
まとめ
企業にとって、社員の定着率の高さはさまざま恩恵をもたらします。少しでも定着率を向上させたいと思うならば、社員たちにヒアリングを行い、改善してほしいことを聞き出してみましょう。課題が明確になり、効率的に効果を上げるための施策を導入することができるでしょう。
また、これから企業は人材不足という問題が大きな課題として立ちはだかる時代がやってきます。多くの働き手に「この会社で働きたい」と思ってもらえるためにも、定着率を上げてより良い職場環境を整えていきましょう。
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