[最終更新日]2023年9月12日 [記事公開日]2022年9月1日
「デュアルキャリア」とは?意味とアスリートの新たな生き方について
アスリートは選手生命が短く、多くの場合30代には引退して別の道を選択しなければなりません。これまでは引退後に別の職業に就いたり、独立起業するといった「セカンドキャリア」が主流でしたが、近年、これに代わる「デュアルキャリア」が海外を中心に広まりを見せ、日本でも実践するアスリートが増えています。このデュアルキャリアとはいったいどのようなものなのでしょうか? そのメリットやデュアルキャリアを成功させるコツなどについて学んでおきましょう。
「デュアルキャリア」とは
デュアルキャリアとはなにかを知るには、言葉の意味を見るとわかります。「デュアルキャリア(Dual Career)」を日本語に訳すると「二重経歴」という意味になりますが、これは主にアスリートが競技活動とそれ以外の進学や留学、就職といった2つのキャリアを共に行っていくという概念を指す言葉になります。多くの場合、アスリートは幼少期より育成機関で競技の英才教育を受けて育ち、早期からプロを目指すことになります。競技にもよりますが、スポーツ選手は年齢とともにパフォーマンスが低下し、多くの場合サラリーマンのように65歳の定年年齢まで第一線で活躍することはできません。
しかし高齢化が進行し人生100年時代ともいわれるような現代において、アスリートには選手としての人生を終えた後にも長い第二の人生が待つことになります。そのため、現役時代から引退後のセカンドキャリアに向けた投資をするための時間が必要になります。セカンドキャリアとはアスリートとして引退した後の仕事などのキャリアを指す言葉です。近年ではアスリートに限らず早期退社した人や定年後のキャリア、出産と育児、あるいは介護を終えた人が社会復帰することも含まれる幅広い意味の用語としても使われています。デュアルキャリアはセカンドキャリアと違い、競技と仕事を両立させて行うことになります。競技生活と仕事が良い影響を与え合うメリットが、デュアルキャリアにはあると言われています。
そもそもスポーツ選手の道に進みながら、アスリートとして成功できる人はごく一部の人たちに限られます。第一線で活躍し続けるためには人並外れた努力が必要なだけでなく、運を持ち合わせていることも必要となります。多くのアスリートがいずれ競技をあきらめて第2の人生を選択することになりますが、これまでのセカンドキャリアの方法論ではうまくいかないケースも多くあったことも事実です。それにはいくつかの原因がありました。
一つはアスリートの社会的なスキルやノウハウが不足していることです。アスリートの多くは秀でた競技力を身に着けているものの、社会経験が乏しいために、社会人として求められる基礎スキルすら身についていないケースが多いのが事実です。特に中途採用は多くの場合社員が退職してその穴埋めのために行われることが多く、即戦力が求められることが多いですが、社会経験の乏しいアスリートは即戦力として使えないと判断され、選考段階で落とされてしまうケースも少なくありません。
アスリートには社会に通用するスキルがないというわけではありません。一つの目標を定めてそれを達成するために競技スキルを上げるということは、社会でもとても役立つスキルです。しかしアスリートの多くはそういった物事を追求する生き方を当たり前として生きてきたことから、それが自分の特別なスキルであると認識できず、またそのスキルをいかにビジネスに役立たせるか、その方法が見えてこないために、両者を活かした力を発揮することができずにいます。
また、多くのアスリートは幼少期から自分の競技に没頭し情熱を注いできており、そのアスリートが競技の他に新しく情熱を注げる対象を見出すことが困難です。結果的にセカンドキャリアとして就職しても長続きしないということが起きてしまいます。デュアルキャリアにはこうしたアスリートがセカンドキャリアに抱える問題点を解消するメリットがあり、採用企業側もデュアルキャリアの採用に積極的な意味を見出すことが増えているのです。
デュアルキャリアのメリットと雇用企業の考え
デュアルキャリアとしてアスリートが競技現役のうちにもうひとつのキャリアとして仕事を始めることには、いくつかのメリットがあります。
まず、デュアルキャリアを実践することで長期的な視点から自分の人生を考えられるようになります。競技によりますが、多くの場合アスリートのピーク期は数年から10年程度と短く、その短期間に十分な稼ぎを得られるのは、ごく一握りのトップアスリートだけです。引退後に自分の競技の功績を認められ生活していけるのは、全体の3%程度しかいないという調査の結果もあります、デュアルキャリアを実践すれば、現役であるうちに引退後の人生を考える長期的視点を得ることが可能となり、引退後の生活をより有益にすることができます。
デュアルキャリアを実践することは、競技以外のキャリアを限られている時間の中で並行して実行することを意味します。これは競技のために費やすことのできる時間を減らすことを意味しており、一見してデメリットであるかのように見えます。しかし見方を変えれば、いかに効率的に限られた時間の中で有効な練習を行っていくかを考えることで、競技に対する集中力やモチベーションを向上させ、良い結果を生むことができる可能性を高めることが可能にもなります。
デュアルキャリアはこれまで競技の世界に限定されていた人間関係を広げ、より広い人脈と情報を得るきっかけになり、人生の選択肢を広げるきっかけにもなります。競技の世界以外の人脈を持つことで、今まで知らなかった多くの価値観と触れ合うこともできるので、競技生活を続けながら新しい価値観や考え方を学び、社会人としての力を磨くことも可能となります。
上記したメリット以外にも、デュアルキャリアの実践には収入源を複数持つことで競技への活動費の捻出や引退した後の経済的不安の解消といった経済面でのメリットがあります。また、引退してから次のキャリアを決めるセカンドキャリアのスタイルを取った場合、現役時代に熱心であったアスリートであるほど、引退による「燃え尽き症候群」に陥る可能性が高くなります。デュアルキャリアであれば、現役時代から競技以外の「居場所」を持つことで精神面を安定させて引退後の不安を軽減する効果を得ることも可能です。
アスリートのデュアルキャリアを受け入れる企業も増えていますが、それは企業側にもデュアルキャリアを採用するメリットがあるからです。
企業側から見たデュアルキャリアを採用するメリットは、企業がアスリートの勤務体制に「多様性」の可能性を見出している点にあります。一般採用の社員は原則的にすべて同じ勤務時間にフルタイムで働くわけですが、全員が同じ勤務体制であることは組織として観ると多様性を損ねているとも考えることができます。多様性が欠けるということは組織の停滞の原因ともなるので、企業側としてはより作業効率やパフォーマンスを向上する意味で多様性を導入したいと考えることになります。勤務体系の違うデュアルキャリアのアスリートを採用し、彼らが仕事と競技を両立させ時短勤務でも仕事に成果を出しているところを見れば、一般社員にも良い刺激になるのではないかと、企業側も期待しているわけです。
トップアスリートになるほど、練習と試合のサイクルをいわゆる「PDCA」として回転させ、常に自身の向上を計れているものであると考えられていることも、企業がデュアルキャリアを採用する理由となっています。
一般的にアスリートと会社員には『Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)』のサイクルを繰り返すことで自己を継続的に改善するという共通項があると考えられています。つまり企業側は、競技で目覚ましい成績を上げるトップアスリートとして活躍する人物には、社会人としてのPDCAサイクルをこなす基礎的なスキルがしっかり出来上がっていると考えていることになります。トップアスリートほど優秀な会社員になる素質があると企業側が考えていることが、企業にとってデュアルキャリアを採用するもうひとつの大きなメリットであると言えるでしょう。
アスリートデュアルキャリアを成功させるコツ
アスリートをデュアルキャリアとして採用する企業がアスリートに共通して求めることがあります。それは仕事と競技を両立させ、その双方で成功してほしいということです。言い換えるなら、二兎を追って二兎を得て欲しいというのが企業側の希望です。競技だけ、仕事だけの一兎を得るだけでは不十分ですし、もちろん二兎を追う者は一兎をも得ず、になってはいけません。
このことからも、デュアルキャリアを実践するにあたっては、まず自分の競技環境を踏まえて無理することなく競技と仕事、2つのキャリアを行える目標と環境の組み立てを行うことが肝要となります。その目標と環境を組み立てるにあたっては、過去にデュアルキャリアを実践してきた先輩選手や、就職支援サービスのプロなどから意見を聞くことが重要となってきます。
デュアルキャリアの成功例の1つと言えるのが、サッカーの本田圭佑選手でしょう。本田選手は現役として活躍しつつ、複数のサッカーチームの実質的なオーナーを務めたり、日本のサッカースクールの運営や、サッカーとは違う分野でのベンチャー企業への出資など、様々なビジネスを実践しています。競技を続けながら外国語やプログラミングを学んで、ビジネスのためのスキルアップも行っています。このような成功の実例を見ながら、自分の実力でどこまでできるかよく検討し、無理のない目標を立て環境を作っていくことが、デュアルキャリアの成功の秘訣と言えるでしょう。
国や地方自治体でもアスリートのキャリアサポート事業を展開しているところが増えているので、これらを利用するのもデュアルキャリアを成功させる有効な手段となります。実例としては東京都のスポーツ文化事業団が挙げられます。東京都スポーツ文化事業団は都から委託されるかたちで、オリンピック・パラリンピックなど国際大会を目指しているアスリートが継続的に安心して競技を行えるよう、現役アスリートの就職や採用をサポートするための事業を展開しています。これらのアスリート・キャリアサポート事業を展開している自治体では、競技者と指導者双方に対してアスリートが現役継続したまま就職するために必要な履歴書の書き方や、面接対策に関するセミナー、またすでにデュアルキャリアを実践している先輩アスリートとの交流会を開催しているところが多いです。企業に対してもJOCと協力しつつ、アスリートの採用の実情、またそのメリットなどについてセミナーを行って理解と啓蒙を深め、アスリートと企業のマッチング役を担っています。
デュアルキャリアを実践する手段は企業に就職するだけとは限りません。自分で起業したりパーソナルトレーナーやウェブ関連職をフリーランスで行うなどといった選択肢もあります。自分で起業したりフリーランスで活動するのであれば、時間を自由にコントロールすることができますので、アスリートのデュアルキャリアの選択に適しているとも言えます。取引先や顧客が競技選手としての自分のファンになってくれるなど、仕事面だけに限らないメリットを得られることもあります。
まとめ
これまでのセカンドキャリアは、アスリートとしてのピーク時期と一般的な就職の時期が重なっていることから様々な問題が生じ、希望の職種に就職したり仕事を始めることが困難という欠点がありました。デュアルキャリアという概念が定着してきて、多くのアスリートがデュアルキャリアを選択するようになれば、多くのアスリートが競技の引退後も有意義な人生を送れるようになるでしょう。今まさに現役のアスリートの皆様には、引退後の人生形成の手段として、デュアルキャリアを選択することを一度検討してみてはいかがでしょうか?
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