[最終更新日]2023年9月13日 [記事公開日]2022年7月21日
「デュアルキャリア」のメリットは?アスリートの新しい働き方について知ろう
「デュアルキャリア」という言葉を耳にして、興味をそそられているアスリートは多いと思います。たとえ現役として活躍している真っ只中にあってもいつかは必ず引退する時がやってきますし、プロアスリートの道だけで生計を立てられるアスリートばかりでもありません。アスリートの人たちが抱える様々な問題の解決策として、有望な選択肢となりえるのがデュアルキャリアです。しかし競技生活との兼ね合いを考えると、二の足を踏んでしまう人もいるでしょう。
そこでこのコラムでは、デュアルキャリアとはそもそもどんな働き方なのかと、デュアルキャリアのメリットについて解説します。デュアルキャリアに関する理解を深め、選択肢の1つとして参考にしてください。
そもそも「デュアルキャリア」とは?
アスリートのライフスタイル・キャリアプランの選択肢として注目を集めているのがデュアルキャリア。この「デュアル」とは「二重の」「二元的な」といった意味で、アスリートとしてのキャリアを重ねながら将来のキャリア形成を図っていく取り組みのことを言います。
スポーツ選手の中でプロとしてそのスポーツをするだけで生計を立てられるのはごくわずか、まして引退した後も指導者やタレントなどその競技に関連した仕事で生計を立てていける人はさらに限られます。スポーツに専念して人生を重ねてきたアスリートがその競技から離れた時、どうやって生計を立てるのか?この問題はこれまで「セカンドキャリア」と呼ばれ、重要なテーマとなってきました。
プロになるために自分の人生をスポーツに捧げてきたアスリートが何らかの理由でその人生をリタイアするとき、どうやって「次の人生を踏み出すのか」が問題となってきたわけです。そんな従来の考え方から離れ、新しいアプローチでアスリートのキャリア形成を目指すのがこのデュアルキャリアなのです。
現役選手の間、プロとして活躍している間に競技と両立させながら別の仕事でキャリアを重ねていく。いわば2つのキャリアを両立させながら形成していくことによって、スポーツから引退した後のライフプランを現役中に具体的な形で作り上げていくことができるわけです。
従来のアスリートにおける「セカンドキャリア」の問題点は「それまでスポーツに専念してきたので社会人としてのスキルとノウハウがない」「社会人としての適性に欠ける」といった面がありました。まして人生を賭けてきたスポーツから離れて心にぽっかり穴が空いているような状況で「これはどんな人生を歩んでいくのか?」という問題と向き合わなければなりません。そうなるとどうしても「もうスポーツでは生活できないから普通の仕事に就くしか無い」といったネガティブな心境でセカンドキャリアに向き合ってしまうケースも見られます。
デュアルキャリアの場合、現役時代からキャリア形成を図ることによって社会人としてのスキル・ノウハウ、さらに一般の社会人ならではのコミュニケーション能力などを磨いていくことができます。現役引退後に突然別の世界に飛び込んで苦労するといった心配がありません。
また現役時代に社会人としてのキャリアを形成していくことで現役引退後も前向きな気持ちで次のキャリアへと移行していくことができます。先述したような「普通の仕事に就くしかない」といった気持ちではなく「これからはこっちのキャリアにさらに磨きをかけていこう」といった気分で臨めるわけです。
さらにデュアルキャリアでは現役時代に「社会人としての自分の適性」を見出すチャンスも恵まれます。生計のために「普通の仕事に就く」ではなく、「自分はこんな仕事に向いてるんじゃないか」と意欲を持って臨める仕事を探していくことができます。
もうひとつ、現役時代に社会人としてのキャリアを重ねることでもうひとつの収入の手段を得ることになります。そのため、現役引退後に収入の手段が断たれて精神的に焦る、といった問題もなくなります。これは多くのアスリートが直面する大きな悩みだけに、大きなメリットとなるのは間違いないでしょう。
一方、企業の側でもアスリートをデュアルキャリアとして受けられる動きが少しずつながら広がっています。スポンサー契約や、昔の社会人チームの一員としてアスリートを迎え入れるのではなく、従業員の一人として、企業の「戦力」の一人として積極的に受け入れる企業が増えているのです。アスリート・企業双方の思惑・メリットが一致する部分にデュアルキャリアの大きな将来性と可能性があるとも言えるでしょう。
アスリートにおけるデュアルキャリアのメリット
先述した部分のほかにもアスリートがデュアルキャリアを志向するメリットがいくつかあります。
経済的な安定
やはり大きいのは経済的な安定です。引退した後にも生計の手段が確保できるだけでなく、将来的な安心感を得られるのは非常に大きなメリットです。
アスリートは結果が命の世界、今現在プロとして活躍し、生計を立てることができているとしても5年後、10年後に同じ環境でいられる保証はどこにもありません。若い世代に追い抜かれて活躍の場を失っているかもしれませんし、体力の衰えによるパフォーマンスの低下に悩まされているかもしれません。さらには思わぬケガや病気で競技を続けられなくなっているかもしれません。
アスリートにとってはこうした不安が精神面に非常に大きな重荷となってのしかかってくるものです。自分のパフォーマンスや競技に対するプレッシャーだけでなく、生活に関するプレッシャーを抱え続けることで、心身に悪影響を及ぼしてしまうことになりかねません。デュアルキャリアで「もうひとつの収入の手段」を確保しておけば経済的な不安を解消し、競技や練習、試合に専念することができます。デュアルキャリアという「もうひとつの選択肢」を持つことによってかえって心身を競技に専念できる、そんな状況を作り上げることができるわけです。
また、この経済的な安定はケガや病気で競技から一時的に離れなければならなくなったときにも、非常に大きなメリットになります。こうした状況ではどうしても早く治して復帰したいと焦ってしまったり、「元の状態に戻れなくなったらどうしよう」と不安にかられてしまったりなどいろいろな悩みと直面するものです。デュアルキャリアで経済的な安定を確保できていれば、焦らずにじっくりと時間をかけて治療・リハビリに臨んで万全な状態での復帰を目指しやすくなるでしょう。
自己管理がしっかりできるようになる
デュアルキャリアを追求しているアスリートは、自己管理がしっかりできるようになるとよく言われます。これも大きなメリットでしょう。スポーツ選手は練習など競技に関しては非常にストイックな面を持ち合わせている一方、それ以外の日常生活では自己管理があまり上手ではない人も見られます。空いている時間はパチンコやゲームをして過ごしたり、お酒を飲んで過ごしたりなど。
2つのキャリアの両立を目指すデュアルキャリアではこうした「スポーツをしている以外の時間」を有効に役立てることが求められます。自然と「この時間をどう有効に過ごすべきか」という意識が強まり、有意義な時間の過ごし方ができるようになります。
2つのキャリアを両立させようとすると、どうしてもスポーツ・仕事両方に割ける時間が限られてきます。しかしこうした時間を有効に利用する意識を高めることで効率・集中力を高め、結果的に両方のパフォーマンスの向上を目指していくことも可能になります。おそらくアスリートの中には「仕事を持ったら練習に時間を費やせなくなるんじゃないか」という不安を持っている方もいるでしょう、しかし時間的な制約が生じる環境はこうしたメリットももたらすのです。
視野を広げるチャンスを得られる
視野を広げるチャンスを得られる点も大きなメリットとして挙げられるでしょう。スポーツ選手はとかくひとつの世界だけで生きているので視野が狭くなりやすいものです。一流のアスリートが視野を広げるために他の競技の選手を交流する、といった話もよく聞きます。その競技に人生をかけているアスリートは日常生活がその世界で完結してしまう面もありますし、それがリタイアした後のセカンドキャリアの形成の妨げになってしまいかねません。普通の仕事に就こうにも何をやったらいいのかまったくわからず、途方に暮れてしまうのです。
現役中にデュアルキャリアを行っていれば、社会人としての仕事の中でさまざまな業種の人たちと付き合う機会が増えますし、異業種の人脈も増えていきます。とくに現役のアスリートは「会社の顔」としての活躍を求められることが多く、異業種と交流する機会が多いと言われます。トップクラスのアスリートならともかく、一般的なアスリートがビジネス界での人脈を構築していく機会はなかなか得られませんから、デュアルキャリアならではの魅力となるでしょう。こうした人脈が独立開業や転職の際にも役立ってくれます。
デュアルキャリアをする際の心得と成功法
デュアルキャリアを成功させるポイントは、先述したメリットとも関わってきます。時間を有効に活用して競技と社会人の両方のパフォーマンスを向上させる、というメリットは同時に時間を無駄にせず、つねに前向きな姿勢で物事に取り組む心構えが必要であることを意味しています。例えばスポーツで結果を出せずにイライラしている、あるいは試合で負けて気分が落ち込んでいるときにも仕事でしっかりとパフォーマンスを発揮することが求められます。スポーツ選手としてうまくいっていないからといって仕事をなおざりにしてよい、ということには決してなりません。このメリハリ、スイッチのオン/オフはデュアルキャリアでは絶対に必要なポイントとなるでしょう。
それから職場に溶け込む努力、コミュニケーションの配慮も重要です。社会人としてキャリアを重ねていく一方、同僚とまったく同じ環境で働くわけではありません。練習や試合、遠征のために勤務時間を調整してもらうといった配慮が必要になってきます。それだけに同僚たちが不満を抱えてしまうといったことが起こらないよう、日頃からコミュニケーションを円滑に行っていく努力が求められます。現役で活躍するアスリートが同じ職場で、一緒に働いているという環境は職場に連帯感やモチベーションをもたらすものです。そうしたアスリートのデュアルキャリアが、職場にもたらすプラスの面を出せるような環境づくりが求められるでしょう。
もうひとつ、社会人としてのキャリアの将来像を描いた上でのキャリアプランも、ある程度考えて働き続けることも必要です。単に「現役を引退したらこっちの仕事に専念する」ではなく、この仕事で将来何をしたいのか、どんな環境で働きたいのか、ビジョンを描いた上で準備もしておく。例えば資格を取得する、将来的な独立開業のための準備をする、など。なかなか時間の都合もあるので難しい面もありますが、現役中にこうした準備ができていればいるほど引退後のキャリア形成がよりスムーズになります。
あとはデュアルキャリアをはじめる段階でのポイントですが、「相性の良い仕事に就く」こと。デュアルキャリアに積極的な企業が望ましいのはもちろんですが、あくまで自分に向いている仕事かどうかも大事な部分です。前者ばかりを重視してしまうと結局「生計が立てられる仕事ならなんでもいい」というセカンドキャリアの問題と同じような状況になってしまいかねません。デュアルキャリアは「現役中にもうひとつの生計の手段を持つ」ではなく、10年後、20年後も踏まえたキャリアプランを描くためのものです。この点を忘れないようにしたいものです。
まとめ
プロとして活躍したアスリートのうち、現役引退後もその競技に関連した職業につくことができるのは全体の3パーセントほどとも言われています。つまり、ほとんどすべてのアスリートは引退後に別のキャリアを築くことが求められるわけです。そんなアスリートを巡る厳しい現実があるにもかかわらず、引退後のキャリアプランについて社会全体があまり関心を持っていない面がありました。長い人生、どんなアスリートにとっても現役時代よりも競技から離れた後の方が長くなります。そんな長い人生を充実したものにするためにも、現役中にキャリア形成を図ることができるデュアルキャリアは非常に魅力的な方法と言えるでしょう。
まだデュアルキャリアの採用を積極的に行っている企業は限られていますが、現役アスリートを従業員として迎え入れるメリットが知られるようになっていくことで、今後取り組む企業が増えていくことも予想されます。将来設計は現役の間に考え、準備をしておく。それが当たり前になる時代が訪れようとしているのかもしれません。
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